変なホテル~総評

2015年10月23日(金) 17:33

UXいろいろ, 日本発信四方山話, 長崎, モノ+コトの話, リサーチャーの知恵袋

HENN-NA HOTEL, Vol.5: If you want to leave your luggage before check-in or after check-out, you are welcome to use the robot cloak. Very many hotels provide such a service with free of charge, but it costs 500 JPY for 24 hours here as you have to ask the robot. The hotel has promised a commitment for evolution, but it can be understood that it would never promise to be perfect, which sounds a bit tricky. The catch sounds perfect from a user centered design principle’s point of view, but the hotel didn’t seem to be spending enough time and efforts on observing guests to satisfy them from the beginning.

チェックインの前やチェックアウトの後に荷物を預かってもらうというのも、ホテルではよくあることですし、それって無料が当たり前という感覚ですが、変なホテルではロボット様を稼働させるために料金かかります。24時間で500円! 搬入口に荷物を入れると、ロボットアームがボックスを持ち上げて所定のロッカーまで運んで保管してくれるようですが、ボックスのサイズ(50×30cm)からはみ出るモノはフロントで別途お預かり(料金同様)、二つに分ければ料金2倍。うーーーーん、使う人おるんかね? そもそも預かり時間の設定が24時間というのがあり得ない気がしなくもない。アレかな?中国からの観光客さんとかがすでに炊飯器を5台くらい買っていて、でもハウステンボスで遊んで帰りたいから2~3日預かってー的な?ないだろ、さすがに(写真[1][2][3])。

 

[1] クロークの操作画面と搬入口 [2] 1個500円です。高いですね [3] ロボットクロークさん

社長がメディアに語ったところによれば、変なホテルは“ロボットが活躍する次世代型のスマートホテル”ということのようですが、ロボット達は基本的にまだまだなレベルでしたし、泊まって感じるのはむしろ、もう一つ同社長が言っていた“世界最高の生産性を追求”というほうに対する執着ぶりです。アメニティを有料にするとか(高い部屋にはついてます…というあたりに執着の中途半端さが見え隠れする)、荷物の預かりを有料にするとか、客の目に触れる部分はもちろんのこと、輻射パネルを使った最新の空調設備の導入で光熱費をおさえたりという取り組みも“世界最高の生産性”に寄与していることでしょう。

“変わり続けることを約束するホテル”というキャッチ、改めて読み返してみると“完璧を約束しないホテル”と解釈できなくもありません。そう考えると、ズルイ(笑)。もちろん、常に観察を怠らず、客の声に耳を傾け、必要に応じて改訂し、評価を行って、変えることを恐れずに変える。それを繰り返し、変わり続けることを約束するというのは、人間中心設計のループをしっかりと繰り返していきますよという宣言に相違いなく、それはお見事な精神とお見受けします。が正直な話、客のニーズを読み取れているようには感じられませんでした。

たとえば朝起きて、身支度を調えながら私たちが一番気になったこと。それは上階客室の足音です。子どもがはしゃいで走り回っていたのかもしれませんが、明らかに上階の足音がバタバタドンドン聞こえていました。天井や床が薄い…ということかな。そういう部分でも経費削減しているということでしょう。できる限りの支出を抑える。ビジネス戦略としては間違っていないのかもしれません。ちなみにフローリングの床には、オープンして半年と経たないというのにすでに傷や汚れが目立っていました。そうした経費削減が、客が見たり、感じたりする部分にどのように跳ね返っているか、ホテル側は考えられているのでしょうか? ホテルが“ロボット”を前面に出して“近未来感”をアピールするのに応えるように、メディアや客の反応はロボットまわりに集中することでしょう。現にそうなっています。それに釣られて長崎まで行ったのは、はい、私です。マーケティング戦略として捉えれば、これも間違っていない。でもそれは表面的な作りに対する、表面的な反応であって、一夜を過ごす“ホテル”という箱に対して客が普通に求める(流行りの言葉を使うなら)おもてなし、(平たく言うなら)サービスに対する反応は別物です。そしてそこまでホテルが気にかけられているかどうか…には疑問が残りました。

まっ、もてなすホテルを作るつもりはない…ということであれば、こんな感じで上々なのかもしれませんけども。