工場の祭典二軒目~柄沢ヤスリ

2014年10月09日(木) 14:46

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A METAL FILE MANUFACTURER: There seemed to be a lot of metal file manufacturers in Tsubame, but there are now only 2 (and 1 independent) to transmit a tradition to posterity. The oldest artisan is over 90 years old, and she is in charge of toothing the nail files. The most interesting process is to dip the toothed files into Miso to guard against a phreatic explosion and a hardening crack. What to do in the countries with no Miso around, then?

二軒目は、1939年創業のヤスリ屋 柄沢ヤスリさんです。かつては燕のヤスリが一世を風靡していたようですが、時代の移り変わりに伴って工場は次々とたたまれていき、現在ではわずか二軒(+個人事業主お一人)という小さな規模で伝統を後世に伝えていこうと努めていらっしゃいます。ちなみに現在、ヤスリ製造の9割以上を賄っているのは広島県の呉市だそうで、造船業や製鋼業の発達とともにヤスリの需要も伸びたという歴史があってのことだとか。

 

[1] まずざっと工程の説明 [2] 最高齢の目立て職人さん [3] 神経を使う細かい手作業

さてヤスリの製造工程(写真[1])ですが、いろいろ飛ばしてメインの“目立て”と、どう考えても気になる“味噌付け”を中心に見学させていただきました。

時代のニーズに合わせて売り出してみたら、売れに売れちゃって大評判のつめヤスリの目立て(ヤスリに“目”を入れていく工程です)は、御年90歳を過ぎて未だ現役の目立て職人(写真[2])がお一人で担当されていらっしゃいます。台に固定した鋼に鏨(たがね)を打ち込んでいくのですが、打ち込み機械のオンオフは足でするみたい。仕組みとかリズムとかがミシンを踏む感じにとても似ていました。手先…というか指先に神経を集中させて、同間隔で目を立てていく作業(写真[3])は果てしなく疲れそうで、とてもマネできない。これを60年以上つづけて来たというのだから尊敬するしかありません。

 

[4] 目立ての終わったヤスリ達 [5] 日本ならでは?!の“味噌付け” [6] お土産のパンフとヤスリ

目立ての終わったヤスリ(写真[4])は続いて“味噌付け”の工程に回ります。市販の味噌にいろんな薬品を混ぜ合わせたもの(詳細は社外秘だそうです!)にヤスリを浸けて、ブラシで伸ばし、専用の機械の上に置いて乾かします(写真[5])。この過程を経ることで、この後の“焼き入れ”を行うときの水蒸気爆発を防ぎ、ヤスリ目から焼き割れが生じるのを防止するという古くからの知恵。ちなみに味噌は、市販のいちばん安い味噌でイイそうです。かつては、工場ごとに自家製の味噌をつくったり、専門店で上等なものを買って使ったりしていたらしいですが、味噌のクオリティは実は焼き入れの効果には無関係だということが実験して分かっちゃったそうな…(笑)。ここでまず感心するのは、そこの関係性に疑問を持った人が現れたという事実。言い伝えられ、信じられていることが必ずしも正しいとは限らない。伝統を重んじることは大切なことだし、その多くの側面にはきっと重要な理由や背景がある。でも、疑問を持ち、その真偽を確かめるという行動をおこす勇気も大切だと思う。言い伝えの過程で誰かや何かの思惑が働いて意味を歪めてしまっている可能性だってあります。科学技術の発達によって調べられるようになっていることもあるでしょう。闇雲に信じて従うのではなく、常に「なぜ?」を問う姿勢。これ大事。そして今わたしが抱いている疑問…、味噌のない国のヤスリ作りはどうなってるの?

ということで、またしても筋違い?!な学びを得て二軒目終了です。パンフレットのお土産にこっそりと“つめヤスリ”も混じって入っていました(写真[6])。愛用しまーす。ありがとうございました。