EPIC発表オスソワケ

2010年09月03日(金) 14:48

UXいろいろ, イベントの話

口頭の論文発表は24件ありました。4つのテーマ毎にざっくりとした概要と、数件ですが発表の具体的な内容をオスソワケします。

 

[1] インフォーマントがビデオ撮影 [2] 日本人は空気を読むのだ [3] エスノグラフィー道とは…

 

▼Paper Session #1:The way of industry

初日午前のセッションは5件。エスノグラフィックリサーチを社内でどうやって売り込んでいくかを各社が模索しているという現状の紹介が中心でした。リサーチの結果をどうやってステークホルダーに示すべきかとか、社員をインフォーマント(被験者)にして社内でエスノグラフィックリサーチを実践し知見を得ると同時に社内に売り込みをかけるとか、RicohだったりYahoo!だったりに所属するエスノグラファーたちの挑戦とこれまでの成果の一端が紹介された感じ。新興勢力が社内で確固たる立場を得ようとするときの必然的な流れとして、社内他部署とのコラボレーションが鍵になるし、変化し続けることが当たり前の消費者に受け入れられるモノやサービスの創出には、さまざまな視点から捉えられた知見の交わりこそが大切になっていくのだということを肝に銘じ てエスノを売り、コラボレーションを促していきましょう!なんて感じのことを欧米のエスノ屋さんたちは考えるところまで進んでいるということが分かりました。

日本は遅れること何年くらいなのかな? もちろん既に取り組み始めているメーカーは国内にもあるんでしょうけれど…。

 

▼Paper Session #2:Pioneering the Path

初日午後のセッションは、こんな手法でエスノグラフィックリサーチをやってみました!的な発表を中心に7件。エスノグラファー自らがインフォーマントとなって母乳の搾乳日記をつけたり、ビデオや写真を撮ったりというのを6ヶ月間実施してみたらすごく大変だったという発表で幕を開けました。インフォーマントの苦労を体感するためのモルモット実験(笑)。でも確かに、まず自分がインフォーマントになってみるというのは賢い学習方法かもしれません。わたしも何かやってみようかと少し思ってしまうくらいには面白い発表でした。この括りでいちばん興味深かったのはIntelの発表です(写真[1])。インフォーマント自らに自分や家族のテレビ視聴状況をビデオ撮影してもらってみたら、笑いあり、驚きあり、発見ありの素晴らしいビデオができてきたという話で、実際にビデオを視聴させてくれたのですが、会場が大爆笑に包まれました。さまざまな調査に応用できそうですが、Intelとしては、インフォーマントから届けられたビデオを無編集でステークホルダーに渡せるわけではない点や、エスノグラファーの関わり方がビデオに現れてこない点などが懸念事項として残っているとのことでした。

ケーススタディは内容を理解しやすいし、聞いていて楽しいものが多いので好き。でもリサーチの目的やリサーチの結果がどういう商品やサービスを生み出すことに繋がったのか…という一番おいしいところの話は各社、出したくないという場合がほとんどで、聞いている側としては少々消化不良に終わります。

 

▼Paper Session #3:Obstacles and Opportunities along The Way

二日目午後のセッションは6件。最初の2件はSession #1と近い話で企業にエスノを持ち込むときの難しさについての発表で、わたしはそういうレベルの仕事をすることがない(今のところ…)から聞いても「ふ〜ん」な反応しかできない(笑)。日本が出遅れている状況の確認にはなりました。

東大の方の発表では、日本人が社交の場でいかに“空気を読む”ことを大切に考えるか、それ故に空気を読みにくいオンラインコミュニケーションには匿名で参加することを好む傾向にあるという実態が語られました(写真[2])。この発表の狙いは、社会や文化を超えたコラボレーションが深い洞察を得るためには重要になってくるということと、それは“国”というボーダーを超えることだけでなく、学術界と産業界のコラボレーションや組織内他部署とのコラボレーションなども含めて協調していくことが大切だと主張することにあったのだと思います。そんな発表を聞きながら私が思ったのは…、会期を通じて日本人が手を挙げて質問をするケースはほぼゼロでした。英語が苦手で、かつ実践面でも出遅れていることを自覚している日本人はそれこそ”空気を読み”、手を挙げることを躊躇ってしまうわけですね〜なんてことでした。

ユーザビリティ評価の結果がデベロッパーになかなか受け入れてもらえないという実態の背景を把握し、打開策を講じるためにエスノグラフィックリサーチを実施したという“ユーザビリティ屋によるエスノ”な話もありましたが雰囲気的にかなり不評でした。ユーザビリティ云々の話はこの学会にはあまり呼ばれていない気がする。棲み分けガッチリできてしまっているのではないかな…というちょっと自分の身の振り方を考えさせられました。

 

▼Paper Session #4:The way of the way

三日目午前、最後のペーパーセッションです。今回のテーマである”エスノグラフィー道”についてのまとめ的発表が中心でした。エスノグラフィーのゴールは、“To grasp the’natives’point of view, his relation to life, to realise his vision of his world(その土地の人のモノの見方や生き方を知り、その人の世界観を体得すること)”であり、この“道”を究めるためにエスノグラファーはかくかくしかじか…(写真[3])って話をしてくれたIITの方の発表がいちばんまとまっていて分かりやすかったかな。

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ちなみに会場は東京ミッドタウンのミッドタウンホールBでした。

 

なかなかの広さの会場が結構しっかり埋まってました。日本の産業界は確かに遅れをとっているけれど、気づいて動き出している企業がたくさんあることも確か。逆に言うと、この時点で動いていないところは“完全に”遅れているという証左でもありますね。今後の動きに注目しましょう。