ネタバレ必至〜ザ・コーヴ
2010年07月14日(水) 18:03
本&映画の紹介映画『ザ・コーヴ』を見てきました。数々のすったもんだを乗り越えて、関東では渋谷のシアター・イメージフォーラムと横浜は関内の横浜ニューテアトルにて7月3日に公開となりました。公開初日は上映に反対する方たちが劇場周辺で少々騒ぎを起こした模様ですが、わたしが行ったときはそんなこともなく、座席は3〜4割ほど埋まっていました。観客にはお年寄りが多い印象です。
以下に視聴後の感想を書きますが、ネタバレ必至。これから映画を見る方はお読みにならないでください。
私が一番に持った感想は、リック・オバリー氏のイルカたちに対する懺悔がこの映画の柱にあるということでした。
1960年代にアメリカで大人気を博したテレビシリーズ『わんぱくフリッパー』の生みの親であるオバリー氏は、その頃、イルカを捕獲し、調教する側にいました。フリッパー役を演じたキャシーの死をきっかけにイルカの保護活動を始めます。彼は、若かりし頃の自分の行いが原因で、その後たくさんのイルカたちが人間の都合で捕獲され、調教されることになったという事実を劇中でも認めています。そしてそれをとても悔いています。イルカが幸せに大海原を泳ぎ回れるように、狭いところに閉じ込められているイルカを解放し、イルカショーを見るな!と人々に訴えます。太地町で行われているイルカ漁を映画という形で世界に知らせたのも、そこで殺されるイルカたちを救いたかったからでした。
美談に聞こえますか? わたしには単なる自己満足に思えました。自分の腕の中で死んでいったキャシーや同じように不運を辿ることになった(と彼が考える)イルカたちに懺悔したいだけ。もちろん彼の生き方を私がとやかく言うのも筋違いですが、彼の自己満足を満たすための“餌食”に太地町のイルカ漁が不運にも選ばれてしまったというのが私の持った一番の感想です。
一方で、映画で描かれた太地町のイルカ漁を肯定するわけでもありません。事実を確かめようとする撮影クルーに対する漁師さんたちの行為は決して褒められるものではないし、しかし逆に、隠し撮りという強行手段をとったクルー側の行為も普通に考えたらおかしい。どうして対話が叶わなかったのか…と残念に思いました。映画に描かれているのは騙し合いです。相手が見ていないところで、自分たちに有利な方向へ、自分たちのやりたいようにどうすれば事態を持って行けるかを大の大人たちが雁首揃えて相談し、頭を使い、お金を使い、法に触れる一歩手前のところで燻り合っていました。漁師さんたちも褒められたものではありませんでしたが、撮影クルーや出演者たちがやったことも自信を持って子ども達に話せることではないのではないかと思います。
では、イルカ漁そのものについてはどうでしょう? 映画の最後、イルカの血で真っ赤に染まった入り江の様子を見ることになりますが、そこを平気で泳いだり、潜ったり、その赤い水で焚き火の火を消したりしている漁師さんたちの姿は、私の目には異常に映りました。これを日常として生活している彼らはもはや正気ではないのではないだろうか? しかし、撮影されることを必死で拒み続けるのは、他の人の目には異常に映るであろうことをかろうじて自覚しているからだとも考えられます。
映画は、騙し合いの結果を片側の目線で描いたものに過ぎません。どの言い分が事実なのか、果たして事実に反する内容が含まれているのかどうかも定かではありません。イルカ漁は毎年9月頃から翌年の3月頃までが季節なのだそうです。残暑が苦しくなり始める頃に、また騒ぎになるでしょうね。その前にできれば、町や漁師さんたちの言い分を、騙し合いのもう片方の目線を知りたいと思いました。