UPAの発表オスソワケ

2009年06月21日(日) 23:39

UXいろいろ, 本&映画の紹介, イベントの話

今年のUPAは、過去に参加した2回に比べるとパラレルセッションの数が増えていたように思います。多いときで7つもパラレルで発表がありました。選ぶの大変だし、興味のある発表が同じ時間に重なってしまう危険性も増すので、日程増えてもイイからパラレルの数を減らして欲しいと思う。私は。それはともかく、今年のUPAで聞いてきた発表の中から、いくつか抜粋してご紹介します。

 

[1] エクスペリエンスをデザインしよう [2] Agile対応のテストレポート [3] このシステムで発砲を探知

▼ Developing Meaningful Experiences
by Nathan Shedroff (California College of the Arts)

エクスペリエンスをデザインしよう! 思い切って要約するとそういう内容だったのだと思います。UIだけではなく、機能一つではなく、エクスペリエンスという大枠を見ていくことが必要だということを訴える発表でした(写真[1])。

“Design is the process of making experiences.
デザインとは、エクスペリエンスを作るプロセスを言う。”

文化や言葉の違いに関係なく人が世界共通に感じる”Meaning(意味)”がある。優先順位や解釈の仕方は文化や個々人によって違ってくるけれど、エクスペリエンスに何らかの”意味”や”価値”を期待することは万国共通。その”意味”を”作る”のではなく、”刺激する”プロセスこそがデザインなのだとNathanは力説していました。とても説得力がありました。

実際にエクスペリエンスをデザインしようと思うなら、企業とエクスペリエンス・デザインを受け持つチーム、そしてエクスペリエンスにお金を払うことになるお客さんの三者それぞれにとって、これから作ろうとしているエクスペリエンスがどんな”意味”を持つのかを考えなければならない。でも、そのためのリサーチ・テクニックはまだまだ足りていないから、ぜひ考案してシェアしていきましょう!なんていう締めくくりでした。

1981年に出版されたチクセントミハイの「The Meaning of Things」がオススメだそうです。これは買いです。

▼ Iterate, Scale and Simplify: Techniques for Adapting User Experience Methods for Agile Teams
by Carissa Demetris(Circle D Design)

数年前からAgileは大流行です。UPAでも、Agile絡みの発表が多数ありました。中でも興味深かったのがこちら。まず「Agileって何?」という、今さら誰にも聞けない的な問いに対する答えを簡潔にまとめてくれていました。

Agile Principles:
– Simplicity
– Frequent delivery of working software
– Face-to-face conversation
– Adaptation to changes
– Attention to excellence and good design

シンプルに事を進めること、ワーキングソフトウェアを頻繁に世に出すこと、対面での会話・議論を持つこと、変更に適応すること、卓越したグッドデザインを実現すべく取り組むこと、ポイントはこの5つだそうです。

そしてAgile Usabilityの難しいところは、頻繁な変更に対応しなければならないことや納期が短いこと、そして口頭でのコミュニケーションが要求され、それに対応しなければならないこと。これを実現するには、小刻みに小規模のユーザビリティ評価を繰り返すことや、Goodな仕事よりもGood enoughな仕事をスピーディに行うことなどが大切になってくる、と。ペルソナを作るときには雑誌の写真を切り取って使っちゃえとか、モックアップ作るときにはPhotoshopなんか使わずに鉛筆使えとか、ユーザビリティ・テストもパターンや知見が見えてきたところで勇気を出して止めてしまえとか、あるいはユーザビリティ・テストはパスしちゃうくらいの割り切りが必要なときもある!と、大胆発言も飛び出す始末。テストレポートも手書きで十分よ〜、と言って写真[2]のような簡易レポートを見せてくれました。

ソフトウェアの業界では、コンテキストに入り込んでみっちりエスノ調査をするか、この発表で紹介されたような小刻みで柔軟な調査を実施してAgileに対応していくか、どちらかが選ばれるケースが今後もますます増えていくのかもしれないですね。

▼ Making the Leap from Web to Mobile: Best Practices in mobile User Experience Research
by Amy Buckner (AnswerLab), Kris Mihalic(Yahoo!)

携帯電話でインターネットにアクセスしているユーザーにYahoo!が提供するサービスを使ってもらい、その利用状況や背景情報を集める調査を行ったときの手法紹介。どんなときに、どの機能が使われるのか、何が利用を阻害するのかなど、単に問題点を抽出するだけではなく、ユースケースを捉えたかったということで、通常のラボテストに代え、次のような四部構成でデータを集めたのだそうです。(括弧内は謝礼金額)
(1) initial in-person interview($100)
(2) mid-way phone interview($50)
(3) final in-person interview($150)
(4) every day report ($3/each day)

特に(4)が面白い。調査対象の機能を使ったかどうか、使った場合はどんな状況下でどのように使ったのか、使わなかった場合はなぜ使わなかったのかといった背景情報を含めて毎日、電話またはメールで報告してもらったのだそうです。小さな額($3)の謝礼ではあっても、コツコツ貯めようと毎日きちんと報告をしてくれるユーザーが多かったらしいです。アメリカ人でそうならば、日本人なら尚更マメな報告が期待できる…、とか思ってしまった(笑)。

また、メールでも報告できるように、機能を使った場合と使わなかった場合、それぞれのアスキング内容を書いたカードを(1)の際にユーザーに渡しておくという工夫も功を奏した様子。その機能を使っているときの写真を撮ってメールに添付してもらうようなこともあったようです。

ラボに来てもらって話を聞くだけじゃなく、参加するユーザーにも楽しんでもらうこんな調査を設計したいものです。日本でも各社いろいろと取り組んでいるのだと思うけれど、公の場でその手法を発表してくれるケース、なかなかないですよね。守秘義務云々の問題ならアメリカでも同様でしょうに、なぜこちらでは出てきて、日本では隠れてしまうのでしょう? 文化差ですかね。いや、私が日本の学会とか研究会に顔を出していないだけか(笑)。

▼ Research Traps: 7 Ways of Thinking That Keep You From Doing Great Customer Research
by Wendy castleman (Intuit)

人間が持っている認知特性を自覚・意識してリサーチを行いましょう、というお話。分かりやすい事例と共に紹介してくれたので、一同大納得でした。機会があったら参考にしようと思い、スライドももらってきちゃいました〜。

(1) Habit Trap
つい習慣に引きずられることのないようにしましょう。いつもの手法が今回も最適解とは限りません。
(2) False Consensus Trap
他人も自分と同じように考え、行動するという思い込みを捨てましょう。自分とは違うタイプの人からも話を聞かなくてはいけません。
(3) Congruence Bias Trap
1つのアプローチが正しかったからといって結論を急がないこと。間違っていそうなことをこそ試してみなければなりません。
(4) Confirmation Error Bias
自分の期待に合うことばかりチェックしてもダメ。意外なこと、期待に反することをこそ試してみましょう。
(5) Availability Heuristic
すぐ頭に浮かぶもので決着をつけないように。記憶に頼らず、必ずデータを見てモノを言うこと。
(6) Recency Bias
最近のことほど記憶に残りやすい。やはり、データを見る習慣をつけましょう。
(7) Illusory Correlation
相関関係があるように見えても、実際はどうか分からない。勘や思い込みに頼らず、量的調査で裏付けをとりましょう。

▼ Experience Architecture and design for a Gunshot Location System
by Larry Rusinsky (Tec-Ed, Inc.)

銃の発砲や爆弾等の爆発を探知し、現場を特定するための”Gunshot Location System”を作っている会社からの依頼で、ユーザビリティ・コンサルティング会社の古株Tec-Ed,Inc.が実施した調査と、調査結果をもとに改良した新システムのUIを紹介するケーススタディ。Tec-Edの仕事っぷりを見たかったのと、Gunshot Location Systemってどんな?という好奇心から発表を聞きに行きました。

調査の手法に目新しさはなく、王道という感じ。でも改良後のUIは、ユーザビリティが向上しているのはもちろん、見た目のデザインもなかなかセンスよく出来ているように思いました(写真[3])。

発表を聞きながら思ったこと。この国では、自転車を盗むようなちっちゃい犯罪を追うことよりも、銃をぶっ放している連中を捕まえることのほうが断然プライオリティが高いのだ。そう、我が家の自転車が戻ってくる日は来ない…。そろそろ諦めよう(泣)。


学会でスライドの写真を撮ると、必ずと言ってイイほどにどなたかの薄くなった後頭部が一緒に写ってしまう…。悪気はないんですよ(笑)。