UPA Europe 2008
2008年12月15日(月) 21:11
UXいろいろ, ヨーロッパ所々方々, イタリア, イベントの話トリノで、UPA Europe 2008という学会に参加しました。
アメリカの本大会とは別に、今年はじめて、ヨーロッパ独自の大会開催にこぎ着けたそうです。 写真[1]は会場への入り口。写真[2]は発表会場の様子です。休憩時間中ではありますが。そして、写真[3]はランチブレイクの模様。イタリアのランチということで期待していましたが、それなりって感じでした。
さて、肝心の大会の中身は…と言うと、せっかくヨーロッパという括りで開催するのだから、アメリカの大会で聞く研究発表とは少し毛色が違ったり、ヨーロッパの地域性が前面に出た成果や事例を中心に聞けたりするものと勝手に期待していましたが、そうでもなかったというのが正直な感想です。普通に、最新の研究発表や事例紹介が主でした。では、ヨーロッパ開催の意義や利点は何でしょう? 発表の場が増えるという点かな。研究者にとっては歓迎すべきことだと思います。私は研究者じゃなくて実務者なので(というのは言い訳で、発表できるものがないので、というのが本当の理由)発表はしませんが、業界の動向を学べる場が増えるというのは喜ばしいことかと。しかし、今年はたまたまヨーロッパにいたので参加しましたが、アメリカの大会も毎年行こうかどうしようかと迷って、予算の都合で参加できない年が多いのに(笑)、その上、ヨーロッパの大会にも参加、なんてことは今後はなかなかなさそうです。
まぁ、それはともかく、私の視点で興味深いと思った発表、いくつかご紹介します。
▼Engaging in Dialogue: reaching out to customers in emerging countries
by Anxo Cereijo Roibàs (Vodafone Global)
Vodafone globalの人の発表で、思い切って要約すると、アフリカやアジアの新興国に暮らすユーザの利用状況調査をするときの手法と注意点の紹介でした。ユーザの携帯電話にSMSでタスクを送信(教示)し、タスクを行った結果をMMSで送り返してもらうという形でデータを集めていくのが骨子。ただし、メールのやり取りをベースにする調査手法ではあっても、タスク前後では直接的な(電話越しではあっても)会話を持ったり、現地の協力を仰いで土地の文化や慣習の調査も並行したり、といったことが結局は結果の精度に大きく影響しそうだ、という結論でした。
発表の内容そのものも興味深かったのですが、私が関心を持ったのはむしろ、Vodafoneがアフリカのユーザに目を向け始めている、ということです。経済発展著しいBRICsのユーザをターゲットにした調査や評価については日本でも少しずつ耳にするようになっていると思いますが、アフリカに目を向け始めているという点は距離の近いヨーロッパならではな感じがしました。
▼Digital home storage beyond devices: a cross cultural perspective on how people keep, protect and find what they value
by Daria Loi (Intel Corporation)
Intelのものすごくプレゼンの上手なお姉ちゃん(おばちゃん?)の発表でした。電子データの保存方法や保存場所を考えるにあたって、人は、実体あるモノを実空間でどのように保管・保存しているのかを中国、インドネシア、スウェーデンの3ヶ国で調べてみました、っていうフィールドスタディの成果発表。言葉と文化の壁を越えて各国の「家」に入り込み、各自がそれぞれ大切にしているモノをどこにしまい込んでいるのか、必要になったときにはそれをどうやって探し出すのか、探し出せないときにはどうするのか、なんてことを聞いてきたそうです。いつの間にか収拾のつかない数になったキャンドルを見せてくれたスウェーデン人、捨てられずに保管庫にしまっていた”壊れた”コーヒーメーカーが5台もたまっていることに今回の調査で気づいたというインドネシア人、どうして食器棚の上にスーツケースを置いているのかと聞いたら姑のものだから勝手に動かせない…と不満げな表情を見せる中国人、などなど「家」に入り込んだからこそ見えてくる実態が多数紹介されました。私もこういうフィールドリサーチ、やりたい。ちなみに、このリサーチの結果がどんな風に電子データのストレージに反映されるか、は謎。
▼Developing a Global Design Methodology: A Case Study
by Radhi Parekh (所属不明)
本国のウェブサイトを作ってから各国向けにローカライズするのではなく、本国を含む関係各国のウェブサイトを協同で作っていくための手法を考案し、実践したという発表がこちら。確かに、どうせ後から各国向けにローカライズすることが決まっているのだったら、最初からみんなで作ればいいじゃん!っていう当たり前だけど、大きい会社だと実はなかなか難しいであろう発想。日本向けにローカライズされたウェブサイトの評価をすることが多いので、軽く目から鱗でした。国境を越えてのプロジェクトマネージメントはすごく大変になるけど、それを上手く乗り越えられれば、全体的なコストダウンとスケジュールの圧縮が可能になるうえ、各国のユーザ満足度も向上する。社内にユーザビリティ・スペシャリストを抱えていないと実現は難しいでしょうし、アウトソースを受ける我々のような外のユーザビリティ屋にとっては、介入するのが難しいという事情もあるので、会場の反応はいまいちでしたが、こういう試みを実践している会社があるってことを知れただけでも私には大きな収穫でした。
▼The Spaghetti Graph
by Brechtje Daams (Delft University of Technology)
ポスター発表です。ウェブサイトのユーザビリティ評価結果を図示する手法とツールの紹介。実際に使ってみないとなんとも言えないですが、発表を見る限りでは、見た目のインパクトが強くて一覧性が高いうえに美しい。レポートを受け取ったクライアントにとっての使い勝手もよさそうです。ちなみに、オランダの大学に所属する方の発表でした。
UPA Europeのウェブサイトでプログラムを確認できます。発表時のパワポとか、そのまま載せてくれている発表者もいるので、ご興味のある方はご覧ください。