セミナーのふり返りその②

2021年08月18日(水) 12:18

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These are questions and answers for those who attended my talk in July, Japanese only.

HCD-Net関西支部主催で実施した『ユーザーの「心の声」を聴く技術』出版記念講演で寄せられた質問にダラダラと答える回です。講演中に答えられなかった質問のうち、匿名ではなく名乗りをあげてくれている方のものを優先してピックアップしました。

Q. 自分がどの程度できてきてるか、何かメルクマールみたいな事はないでしょうか?

A. メルクマールってなんだ? ってことで調べました。ドイツ語起源の言葉で、目標を達成するまでの道のり、中間目標、ゴールなどといった意味らしい。へぇ~。大学の第二外国語はロシア語だったのでドイツ語には疎いんですよねー、というどうでも良い情報はさておき、回答です。分析をしたり、レポートを書いたりするときに、こじつけがどのくらい減ってきたかをメルクマールにすると良いと思います。調査を実施して結果を分析し、まとめて次へつなげようとするときに、「調査データがいまいちだったので今回は結論を出せません」とはなかなか言えず、多少こじつけたり、推測を盛り込んでそうとは見せなかったり、そんな逃げを打つ(認知的不協和を回避する)ことはダメだとわかっていてもあると思います。それを報告はできなくてもメタ認知することができていれば、改善へ向かっていけるはずです。そういうふり返りを重ねることをメルクマールにするってことで、どうでしょう?

Q. インタビュー時に毎回同じ様に心がけと事前準備をしていても「この人は本音で話していないな?」と感じる人が出てくると思います。そういった際に、本日ご紹介の内容以外で効果のあるテコ入れ手法があれば教えて下さい。

A. 当日回答したような気がしなくもないけど記憶がぼんやりしているので、回答します。よくある質問なので、どこか別の場所で回答したのかもしれないし。良いラポールを作れている場合、わたしなら「ぶっちゃけどうですか?」みたいな質問をしてしまうことがあります。「というのは、建前だったりします?」「オブラートに包まずズバッと本音をどうぞ」「こういう場でなかなか本音は言いにくいかもしれませんが、わたしに遠慮はいりませんよ……」とか相手や状況によって言い方は変えますが、大事なのは「相手の話を信用していない」という雰囲気にならないようにすることです。まー、実際信用していないのですが笑、本音を言いにくい雰囲気を感じているのかもしれないのでそこを取り払ってあげることですね。あと、質問の文脈を変えてみるのも効果的です。「今のお話はコレコレという状況でのお話でしたけど、状況がカクカクに変わったらどうなるんですか?」みたいに、相手が話しやすいと思って選んだ文脈やシーンを強引に切り替えて、その場で考えてもらうようにするんです。そうすると「用意しておいた無難な回答」では済まなくなるので本音が出やすくなります。

Q. 依頼者から「売れるものを作るために何かユーザーから聞き出したい」のような抽象的な相談をされた場合、奥泉さんはユーザーへの質問事項や対話の流れをどのように具体化されているのでしょうか。そもそもの依頼者へのインタビューから始めるのでしょうか

A. これは「抽象的な相談」というよりも「図々しい相談」ですね笑。例の「ユーザーに聞けばインサイトが出てくる」と勘違いしている依頼主を相手にすることになるので、その認識を修正するところからはじめないと危険です。依頼主がどういう技術や想いを持っていて、それをどういう人たちに届けたいと思っているのかを聞き出す(依頼者へのインタビューですね)ところにみっちり時間をかけないと調査設計できません。

Q. 使用情報(取扱説明書など)にフォーカスを当てて調査をされたことはありますか?「製品を使うためにどのような情報提供がいるのか」を知るためにも、ユーザー調査は役立つでしょうか?

A. 取扱説明書の評価は経験がありますが、ユーザー調査はありません。より良い取扱説明書を制作するために「ユーザー調査」をするというよりも、製品を具体化する以前に実施する「ユーザー調査」に取扱説明書の担当者や担当部署も最初から関わるようにするのが理想的な姿ではないでしょうか? もちろん、ユーザーの生活実態や情報の取捨の仕方を幅広く理解し、蓄積することを目的にユーザー調査を実施するのも効果的だと思いますが、そのような取り組みをされている企業さんがあるかどうかは存じません。

Q. インタビュー中は何を考えてるか教えてください

A. 大雑把には、セミナーの冒頭で紹介したとおり(しましたよね?)「場づくり」「舵取り」「深掘り」の3つです。ラポールと時間を気にしながら、なにをどこまで掘るべきかの判断をしているつもりです。もっと具体的に「何を」ということになると、調査の目的や相手次第でいろいろです。

Q. 手っ取り早く調査対象に合致する関係者にユーザー調査することは、どのようにお考えかお聞きしたかったです。一般ユーザーへの調査と、うまく使い分けや併用ができるのでしょうか。

A. 「手っ取り早く調査対象に合致する関係者」というのがどんな人のことを指しているのかがよくわからないのですが、社内の他部署の人とかですかね? 一般ユーザーへの調査に先立つリハーサルのような位置づけで実施するのはぜんぜん有りだと思いますし、一般ユーザー相手に調査を実施する予算を取れないとかいう場合も、なにもやらないよりは良いと思います。ただし、社内の人は言っても「中の人」ですし、一般ユーザーをリクルートするときには厳しくチェックする条件を、中の人を相手にするときは緩くしたり、そもそも確認を怠ったりしがちです。せっかくご協力いただくなら、条件に合致する人かどうかをしっかり確認するところも手を抜かずにやりましょう。

Q. ラポールとアイスブレイクは異なるのか。ユーザーから本音を引き出すためのポイントはありますか?アイスブレイクの場合は緊張をほぐすことが優先されますが、ラポールも同様なのでしょうか?

A. 「ラポール」は信頼しあい、遠慮なく語り合える関係という「状態」のことで、「アイスブレイク」はラポールをつくるために使える「手法」のひとつですから、同じものではありませんね。アイスブレイクは特にグループワークをするとき、緊張をほぐして連帯感を生みたいときに有用とされる手法だと認識していますが合ってますかね? わたしは1対1のユーザー調査がほとんどなのであまり使いません。対話で勝負します笑。

Q. 自分以外の観察担当がインタビューの場にいる場合、メモの取り方などモデレーターとどの様に役割分担するのがお勧めでしょうか

A. モデレーターが目の前の対話に全集中するために、観察担当には調査を俯瞰する役割を担ってもらう……という役割分担がひとつ考えられますが、実際には、調査を俯瞰する目を持ちながらでないと良いモデレーションはできませんので、そこを切り分けてもあまり意味がなかったりします。わたしがお願いするとしたら、「良いこと言った!」という「発話」を一言一句逃さず書き留めておいてもらうことでしょうか。それがあれば書き起こしの手間と時間を節約して報告書の作成へ進めるので。ただし、「良いこと言った!」に気づくにはそれなりの経験が必要なので、結局は発話をベタに書き起こしながら聞いてもらうことになるかもしれません。観察担当が報告書の作成を担えるレベルなら、観察しながら報告書の骨子をまとめてもらう作戦を取ります。そこにモデレーターの所見や分析結果を足すという段取りにしておけば、報告書作成の時間をかなり節約できるはずです。

Q. 認知特性と解釈の塩梅が難しいと感じています。特に分析の段階で、認知バイアスは考慮しつつも、生のインタビューデータからインスピレーションを受けてアイデアを思いついたり、思考をジャンプさせたり、生データを解釈する力を問われることもあります。この認知特性と解釈の塩梅について、奥泉さんのお考えをお伺いしたいです。

A. そのとおりだと思います。水本さんもおっしゃっていましたが「何度もやってみるしかない」というのが答えです。分析と解釈を行うときに「認知特性から逃げない」という立場を取れるかどうかが肝になります。アイデアを思いついたり、思考をジャンプさせたりするときに認知バイアスが「悪さ」をする可能性は正直「ゼロにできない」です。だから「何度もやる」んです。「こうだと思うけど違うかも?」を時間の許すかぎりくり返して、自信を持って言えるところまで行く。そのくり返しが少なければ「ただの思いつきじゃないの?」と突っ込まれたときに自信を持って反論できないはずです。ということで、分析にじっくり時間をかけられるように調査設計するのが大事になりそうです。