宿が提供する避難経路図

2014年10月28日(火) 19:51

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FIRE ESCAPE PLAN HOTEL PROVIDES: Every hotel needs to provide a fire escape plan for emergencies. But it rarely happens for us to make full use of it. Then, why don’t you using it to provide useful information for potential return guests? The fire escape plan of Hotelli Aalto tells not only the escape route, but also the arrangements of each room, which would be a helpful information for guests to consider which room could be ideal for the next visit. This is what other small-scale luxury hotels and inns providing various arrangement rooms.

昨日ご紹介した 京小宿 八坂 ゆとね のように、最近は小規模でありながら…というかだからこそ、箱としてもサービスとしても細部にまで気をつかって、それこそ流行りの“おもてなし”を提供しようと頑張ってくれている旅館やホテルが目立ちます。そしてそういうところは、部屋ごとにしつらえを変えて、部屋を選ぶ楽しさまでをも提供してくれたりするから、迷う…。ゆとねの場合はおひとり様を受け入れてくれるお部屋が二つしかなかったのでさほど労せず決められましたが、選択肢がたくさんあり過ぎると人はなかなか決断できない、というのはシーナ・アイエンガー氏が“ジャムの法則”として世に知らしめたとおりです。

と、それはさておき今日話題にしたいのは、しつらえの異なるさまざまなお部屋を提供する宿が、リピーターを獲得するために効き目のありそうな小技です。

 

[1] ゆとねの避難経路図 [2] Qbic hotelの避難経路図 [3] ホテリ・アアルトの避難経路図

部屋に入って振り返ると、ドアに非常時の避難経路を示す館内地図があることに気づくのは今や当たり前のことかと思います。京小宿 八坂 ゆとね も例外ではありません(写真[1])。小さな宿なので難しいことはない。部屋を出て右へ進み、メインエントランスから逃げればイイことが分かります。欲を言うなら、部屋数わずか7つなので、館内の全体像を示してくれたほうが、どこからどう人や空気が流れてくるのかが分かってイイかもしれません(非常時にそこまで考えるゆとりはないかもしれませんけども…)。

二枚目の写真は、今年ロンドンで利用したQbic hotelの避難経路図です(ボケボケですが…写真[2])。ゆとねよりも規模の大きいホテルなので、フロアの全体像とアラームや非常口の位置、そして目指すべき避難場所(駐車場)が分かるようになっていて、本来提示することを意図した情報は確かに伝わるようになっています。が、わたしがむしろ注目したのは、各部屋のサイズやエレベータからの距離といった、むしろ非常時ではなく日常時に気になる…というか、お部屋選びに使えそうな情報の数々。私の308号室は隣の309号室とコネクティングできるようになっているから壁が薄くて、だから隣の声がダダ漏れなのね…とか、少し安く泊まれる窓のない部屋は窓がないだけじゃなく、部屋サイズも小さいっぽい…けどエレベータには近くて便利かも…とか、眺めていたら推測できる情報が結構ある。そして次に同じホテルに泊まろうとするときにリクエストを出せるくらいには役立つと思う。

そして最後は、この夏、捻挫している足を引きずりながら訪れたホテリ・アアルトの避難経路図(写真[3])です。分かります? 各部屋のしつらえがうっすら分かるようになっているんです! 館内を見て、体感した後でこの避難経路図に向かえば、お風呂場へと続くエレベータや階段に近いお部屋がどこか分かるし、208号室はエレベータを囲むように作られているから独特な廊下が出来あがっているってことも分かる。Webサイトにある写真ではお部屋の広さ感が伝わるような伝わらないような…(ぜんぶ広々しているように見える)ですが、こうして館内にいながらにして各部屋のしつらえとフロアマップを目の当たりにすれば、次は201号室にしてみようかな?!とか、いやもっと豪華なしつらえの3階のお部屋にしてみようかな!とかってなりそうじゃないですか?

宿泊施設として当たり前に提供しなければならない情報も、提供の仕方をほんの少しヒネるだけで、リピーターを生み出す餌(と言うのは言葉が悪いかな…笑)にもなり得る。ちょっと目から鱗な避難経路図でした。