無意識に選ばれる表現

2010年08月27日(金) 08:22

UXいろいろ, ヨーロッパ所々方々, クロアチア, ヒトについて, リサーチャーの知恵袋

最近はエンタメ系の比較的くだらないネタが続いたので、たまには仕事絡みの真面目な話を書こうかと思います。

春に旦那と彼の両親の4人で東欧を回る旅行をしました。クロアチアのプリトヴィツェ湖群国立公園がどんなに素敵だったかというお話は以前ご紹介したとおりです。道中の移動はすべてレンタカーを使いました。かなりの長距離を一人で運転する羽目になる旦那はいつもどおり大変そうでしたが、都会も山奥も関係なく自由に動けるし、バスツアーのように他のお客さんへ配慮する必要もなくなるため、車での旅行はなかなか快適です。後ろで座っているだけの両親も疲れたと思いますが、窓から見える見慣れない景色をすごく楽しんでいるようでした。

どの街を走っていたときのことだったかは忘れましたが、市民が当たり前に利用するバスを目にして、しばしその話題で盛り上がったことがありました。で、話が一区切りついたところで運転中の旦那が両親に向かってこんなことを言ったんです。

「なんで乗り合いバスって言うの? 山口では皆、乗り合いバスって言うの?」
※両親は山口市に住んでいます。

お父さんだったかお母さんだったかも忘れましたが、どちらからともなく切り出したこのバスの話題の最中、わたし達はずっと単なる“バス”ではなく、わざわざ“乗り合い”という単語を頭に付けて“乗り合いバス”という表現を使ってバスのことを表していました。で、4人全員がそれを別に指摘するでもなく、言い直すでもなく、“市民が利用するバス”を指していることを理解し、使い続けた。単なる“バス”という表現が避けられたのは、“観光バス”と区別するための無意識のことだったのではないかと思います。

この一連のやり取りを経てわたしが思ったのは、状況に併せて人は無意識に表現を選んで発言をするんだな…ということ。そして聞き手側もその表現が選ばれた背景を無意識にくみ取って、受け入れるんだな…ということです。日頃、一般ユーザーさんの協力を得てユーザテストなるものを実施する仕事をしているのですが、そのテストのときにも、もしかしたらそういう“無意識に選ばれた表現”というのが使われる場合があるのかもしれません。ユーザーさんの口から発せられる言葉の一つ一つに、もっと注意を払う必要があるということに気づかせてくれた、旅行中のふとした会話でした。