UPAの発表オスソワケ(2)

2010年05月31日(月) 04:53

UXいろいろ, ヨーロッパ所々方々, イベントの話, ドイツ

『ユーザビリティテストの秘訣230』の著者としてご存知の方も多いかと思いますが、デンマークのユーザビリティ第一人者Rolf Molich氏が2本もパネルディスカッションをオーガナイズしてくれていました。

 

[1] 色紙で投票!斬新ですね [2] 柱の陰で何も見えず… [3] パネルディスカッション

彼はずいぶん以前から、CUE(Comparative Usability Evaluation)という研究を続けています。同じモノを複数のユーザビリティ専門家に評価してもらって、その評価結果を比べるという、ざっくり言うとそういう研究です。比較結果から分かることは、ユーザビリティ専門家によって仕事の仕方が実はかなり違うということ。今回のパネルディスカッションは、CUEの結果から、専門家によって意見の分かれる視点や見解がどんなところに見られるかをあげ、会場のみんなで意見交換して盛り上がるという趣向でした。ちなみに俗に言う意見交換には全然時間が足りないので、各神話に対して、賛成は緑、どちらとも言えない場合は黄、反対は赤の紙を聴衆があげ(写真[1])、ざっと見た感じどの色が多いかをチェックするという、Rolf氏曰く「とっても合理的かつ効率的な定量評価」をベースに、一言いいたいという人は手を挙げて語る、という手法でした。かなり盛り上がったように思います。

一つ目のパネルには遅れて会場入りしたがために、太い柱の陰からスライドを見ることもできない状態で聞く羽目になったため(写真[2])、内容を確実に報告できそうにありません。ということでパス。かなりの数の聴衆を集めて最終日の朝に行われた2つ目のパネルについて、少し詳しく報告します。

“Five Users Will Find 85% of the Usability Problems” – and Other Myths About Usability

と題し、Rolf氏の他3名のユーザビリティ専門家が壇上に上がりました(写真[3])。そして、業界にはびこるMyth(神話)が真実かどうか意見を交わしてくれました。議論の対象となった神話は以下の10個です。

1. どんな製品の評価でも、5人テストすればユーザビリティの問題点を85%発見することができる
2. ユーザビリティテストの主な目的はユーザビリティ上の問題点を発見することである
3. ユーザビリティテストは誰でも実施できる
4. 専門家評価の結果は、ユーザビリティテストの結果と同じくらい信憑性がある
5. 被験者はマーケットのセグメントを反映すべきであり、故にデモグラフィックは重要である
6. ユーザビリティテストのモデレータは、より客観的な視点で評価のできる外部のコンサルタントに依頼すべきである
7. ユーザーが何(どこ)を見ているかを明らかにしてくれる視線追跡(アイトラッキング)調査は、通常のユーザビリティテストでは明らかにならない重要な問題点を明るみに出す
8. テストの妨げとならないよう観察者には別室を用意すべきである
9. テストで明らかとなった問題点すべてに改善案を提示すべきである


皆さんはどれに賛成で、どれに反対ですか? 

ちなみに、壇上の4人全員の意見が一致した神話は#2と#7の二つのみでした。どちらも単なる神話で、真実とは言えないという見解です。会期中の展示に視線追跡調査システムを紹介・宣伝するものが私の知る限りで4社はあったのですが、バッサリと切られた感じですね(笑)。視線追跡の結果を提示すればクライアントを納得させやすいという面は確かにあるけれど、視線追跡をしないと出てこない問題点なんて無い。ユーザビリティテストを実施するだけでも予算が云々という話になるのに、視線追跡なんて高すぎるし、時間も無駄。ユーザーに変な装置を付けさせることでデータにも歪みが出るし、そうなると大事な部分を取り逃す羽目にもなりかねないってことをクライアントには理解してもらわないとね…と、私の見解とも完全一致ですよぉ〜。視線追跡を推している会社には申し訳ありませんが、そういうわけで視線追跡なんて無駄です!

その他の議論の内容は、とても書ききれないのでパスします。興味のある方はご連絡ください。気が向いたら返信します(笑)。日本でも、専門家を数名抜粋して壇上にあげ、議論してみたら面白いかもしれないですね。