投入金額を操作する仕組み

2009年08月30日(日) 13:20

UXいろいろ, アメリカ縦横無尽, サインやUIの話, サンフランシスコ, ヒトについて, ベイエリア, モノ+コトの話

アメリカの電車の話になったので、ついでにもう一つ。主にサンフランシスコへ通勤・通学する人のための足の一つとしてBART(バート)という電車も走っています。空港からサンフランシスコ市内へ移動するための公共交通機関として、観光客にも親しまれています。写真[1]は、そのBARTの券売機。昨日紹介したCaltrain(カルトレイン)の切符は紙に印字しただけのもので、再利用はそもそも考えられていません。しかし、BARTの切符は磁気カードになっていて、お金を追加すれば繰り返し使えるようになっています。

 

[1] BARTの券売機 [2] 投入金額を操作する仕組み

BARTの切符を買うときはお金の投入が先です。Caltrainでは券種や金額を選択した後、最後にお金を投入しますから順番は完全に逆。それだけでも既に分かりにくいのですが、実はさらに面倒なところがあります。BARTの場合、たとえば20ドルの紙幣を投入すると、磁気カードに“20ドル全額”をチャージすることを前提に手続きが始まるんです。二人分、つまり同額の切符を2枚買うようなこともできるようになっていますが、投入された金額で買える“上限いっぱい”の切符をお客さんは買おうとしている、という前提で手続きが進むのは同じです。

写真[2]は、2人分の切符を同時に買おうとしているところ。片道4ドルの乗車券を2人分購入したかったので、10ドル紙幣を投入し、4ドル×2人分を買うにはどうすればよいものやらとしばし考えました。券売機は、10ドルで2人分を買おうとしたときの“上限いっぱい”の値段、つまり5ドル分の切符を2枚買うようにと促してきます。1ドルなんていう微妙な金額が磁気カードに残ってしまったら、きっとゴミになってしまう。だから、ぴったり4ドル×2人分を買いたいのですが、なかなかその方法を見つけられませんでした。

画面をよくよく見てください。Bのボタンにあたるところに“Subtract $1”と記されているのが分かるでしょうか? これは“マイナス1ドル”を意味しています。このボタンを2回押して、投入した金額(10ドル)から余分な分(2ドル)を引き、投入額を“8ドル”に修正したうえで購入手続きを進める。これが正解です。

日本だと、投入された金額はいくらで、そのうちのいくら分をチャージするかを訊かれますよね、確か。チャージする金額を選ぶ、というか調整する仕組み。BARTの場合は、投入金額を調整する仕組みになっていて、そこのところの前提、考え方がそもそも違うんです。ちょくちょくBARTを利用する人で、磁気カードにいつもある程度の額をチャージしておきたいというユーザーには、「投入額を全部チャージしちゃいますよ、イイですか? イヤなら、少し投入額を減らしてください」っていう仕組み、うまく機能するのかもしれません。単発の利用者よりも、定期的にBARTを利用してくれる人のほうに重きを置いて操作手順を組み立てている、とも考えられるわけです。どちらの利用者にも分かりやすく、便利な仕組みを作るのが理想と言えば理想ですが、メインのユー ザーがどんな人で、どんな考え方をする人かを考えるのも、モノ作りには大切です。自分が、そのメインユーザーから外れてしまうと、このとおり、ちょっと切ない思いをすることになってしまいますけれど…。