UPAの発表オスソワケ(1)

2010年05月30日(日) 03:44

UXいろいろ, ヨーロッパ所々方々, イベントの話, ドイツ

今年のテーマは、Embracing Cultural Diversity: User Experience Design for the Worldでした。第3世界の発展を受けて、ユーザビリティ業界も欧米の枠を飛び出し、文化の壁を乗り越えるにはどうすべきかを考え始めたというわけです。おかげで、去年のUPAで全盛を極めていたAgileはすっかり鳴りを潜め(Agile関連の発表は1件しかなかった様子)、発展途上国での調査にも使える手法の提案や調査事例が多くなっていました。なるべく偏らないように発表を選んで聞いてきたつもりです。以下にご報告しますので、予算がなくて行けなかった皆さん、ご参考ください。

 

[1] Google Wave★★ [2] 中国テストの秘訣★ [3] 日記法用アプリ紹介★

▼ Google Wave 写真[1]
by Aaron Cheang (Google)


Google Waveとは…

“Web におけるユーザーのコミュニケーションとコラボレーションを支援する製品です。1 つの「ウェーブ」は会話であると同時にドキュメントであり、そこでユーザーは適切に書式設定されたテキスト、写真、動画、地図などをほとんど瞬時にやり取りし、共同作業を行うことができます。”(http://code.google.com/intl/ja/apis/wave/)

発表の前半は、Google Waveを使って実際にどんなことができるのかの紹介。後半はこのGoogle WaveがDisruptive innovation(”破壊的な革新”とか言うのかな? 人々の生活スタイルを変えるくらいのインパクトのある革新や発明を言います)になり得るのかどうかという、Googleの中でも未だに試行錯誤が続いているというお話でした。Disruptive innovationたり得るには一貫性の追求や一般論の踏襲を諦める必要が往々にしてある。でもそれは優れたUXを追求する向きに反するかもしれない。ならばどうやってバランスをとっていくべきなのか? そんな議論を繰り返しながら、ビジネス、サービス、そしてテクノロジーのバランスを慎重にとりつつ、革新を実現することを目指していま〜す、という感じのまぁ、上っ面の紹介でした。学会で喋れるのは、まぁこのくらいでしょうね。
Googleの人がUPAで喋るのは珍しいし、Google Waveって何だ?というのもありまして聞きに行ってみました。Googleの中では、”とりあえず作って公開すれば自ずとユーザーがついてくるよ”みたいな話になることが多いけれど、いろいろとリサーチをしてみたらそんな魔法のような話はなくて、何をできるモノなのかをきちんと説明してあげないとダメだし、周りの皆が使うようにならないと使い始められない人も多いし、”作ればOK”みたいな簡単な話ではなかった…という正直で当たり前の話、だったように思います。とりあえず、今度Google Waveを使ってみよう!くらいの気持ちにはなりました。


▼ Usability Testing in China – Tips and Tricks 写真[2]
by Daniel Szuc (Apogee Usability Asia, Ltd), Chui Chui Tan (cxpartners)


タイトルどおり、中国で調査を実施するときの秘訣を紹介する発表でした。

・とりあえず”イエス”と答えるのが、”礼儀”だと中国人(特にお年寄りの場合)は考えるので、リクルーティングのときは尚更、かなり突っ込んで質問し、字面通りに受け取って良い”イエス”かどうかを確認すること。

・テストの様子を録画することを被験者に明示し、了解を得ることが法律で義務づけられているので、テストを始める前に必ず口頭で確認し、了承するところを録画しておくのが後々のいざこざ回避に大切。

・信用した人に対してしか心を開かないので、冒頭で”Small talk(世間話)”をして、信用を勝ち取ること。

といった感じの秘訣が披露されたのですが、どうでしょう? 日本と変わらないな…というのがわたしの印象です。欧米の人にとっては新鮮なのだろうか? やっぱり同じのような気がするけれど…。


▼ InfoPal: A System for Conducting and Analyzing Multimodal Diary Studies 写真[3]
by Jhilmil Jain (Hewlett Packard)


Diary Study(日記法)を効率よく実施できるようにとHPが考案したアプリケーションの紹介でした。各被験者の日記をキレイにプリントアウトできるようにしているのはとても便利そうだった。

中国やインドをはじめとする発展途上国の成長が著しい中で、こうしたアプリケーションが出てくるのは納得です。遠隔でリサーチをコーディネートし、結果を効率よくまとめること、これからますます求められてくるでしょうから。今のところ、HPの人に招待してもらわないと使ってみることはできないようです。興味のある方には発表者のメールアドレスご案内しますよ〜。

質疑の中で、ご存知(業界人限定)Aaron Marcusがもう一歩踏み込んで、日記を観察している人の気づきや意見を書き込んで共有できるようにしてくれるとスゴク嬉しい!と発言していました。イイところをついてますね。


▼ Collaborative Heuristic Evaluation: Improving the Effectiveness of Heuristic Evaluation
by Helen Petrie & Lucy Buykx (University of York)


ユーザビリティ専門家が単独でヒューリスティック評価を実施した結果と、5名のユーザビリティ専門家が合同でヒューリスティック評価を実施した結果を比較して、後者のほうが評価の効率が良いですぜ〜という研究結果の発表です。

「それは、そうだよね?」と直感的に思われることを実際にやってみたら「やっぱり、そうでした」と言っているだけであまり面白くないようにも思いますが、合同でヒューリスティック評価を実施するときに使う記録シートみたいなのは応用価値がありそうでした。

結論としましては、欧米の専門家はヒューリスティック評価がお好きって感じです。


▼ Combining Methods: Web Analytics and User Testing
by Martijn Klompenhouwer & Adam Cox (User Intelligence)


ウェブアナリティクスとユーザテストのコンビネーションを推奨する発表です。

ウェブアナリティクスのデータを見れば、ユーザーが利用している入り口や出口、サイト内での行動パターン、利用頻度の高い機能などが見えてくるので…
・どんなユーザーをリクルートすべきかが分かる
・テストシナリオを作りやすくなる
・タスク設計に役立つ
・テストで得られた知見をサポートするデータも手に入る

ユーザテストでは設計したタスクとシナリオに沿ったフローしか確認できませんが、ウェブアナリティクスのデータを丹念に調べれば、意外なフローが見つかったりして面白いとかいう話もありました。で、彼らの結論は”Combining methods works.”ってことで、う〜ん、そりゃそうだ。それは分かっているから、具体的にどのアナリティクスデータを使って、どうユーザテストに生かすかとか、ユーザテストの結果が出た後にアナリティクスデータを見直したらこんな知見が追加になったとか、そういう具体的な事例を聞きたかった。残念。



[4] Google Map用アイコン★★★ [5] ペルソナの国際化★★★ [6] eコマースの国際化★★

▼ Make Icons Make Sense: Solving Symbols For Global Audiences 写真[4]
by Patrick Hofmann (Google)


またしてもGoogleの人の発表。Google Mapに使うアイコンのデザインをしている人で、世界統一はとにかく難しい!という結論でしたが、その結論に至るまでの試行錯誤と若者(5〜15歳)を被験者にしたアイコン理解度テストの事例報告がとても面白かったです。わたしの仕事には直接関係しないけれど、今回のUPAで一番楽しく聞けた発表でした。


▼ Creating Richer Personas – Making Them Mobile, International, and Forward Thinking 写真[5]
by Michel Snyder他(Oracle Corporation)


携帯電話ユーザーのペルソナ作りの事例発表でした。携帯電話が中国やインド、アフリカなど発展途上諸国に普及するようになって、ペルソナも各国仕様にしていく必要が生じてきたけれど、分かったことは”文化が違ってもタスクは変わらない。そのタスクを達成しようとするときに取られる手段や方法が変わるだけ”とうことだそうです。言われてみれば確かにそうだな…と思うのですが、正直、目から鱗な感じでした。

実際に完成したペルソナも見せてくれたし、ペルソナ作りのために実施したリサーチの内容も教えてくれてとても参考になりました。オラクル、太っ腹です。


▼ The Amazonization of Global E-Commerce User Experience 写真[6]
by Arne Kittler (Fork Unstable Media GmbH)


eコマースサイトを作るときに考えなければならないバランスがいくつかあって、どの指標をどっち寄りにすべきかを考慮し、サイトをデザインすると上手くいきますよ、というお話。今回紹介してくれた指標は次の3つでした。

・Amazonization vs. Differentiation
・Globalization vs. Localization
・Equalization vs. Individualization

それぞれの長短を示してくれたのと、以上の3指標を3本の軸にしてグラフを描き、バランスを考えるという手法も興味深いものでした。




とりあえず8件の紹介でした。続きはまた今度。